福島原発行動隊に参加しましょう

- 地球を、そして子供達を、更なる放射能汚染から守るために -

『寺門興隆2011年10月号への原稿(掲載時に題名変更と一部削除あり)

               元・第1種放射線取扱主任者 田中雅博

危機を好機に

 以前、最初にバチカン医療国際会議に招待されたとき、教皇庁から指定されたレストランに行ったらサザエさんそっくりの女性が食事をしていました。 日本人観光客かと思ったのですが、翌日の会議場にもいて中国出身の招待講演者だとわかりました。 全く見かけによらずプリンストン大学の経済学者で、私は経済学の講演内容は理解できませんでしたが、 スライドに「危機」という漢字を示して、「crisis(危機)は漢字でdanger(危険)とopportunity(好機)と書きます、 危機こそチャンスなのです」と言ったことだけは理解しました。日本は震災の被害と放射能の危険に曝されて大変な状況ですが、 この危機を好機にするには、危機の現場に行っての具体的な行動が必要です。寺院での祈願は危険な場所にゆく覚悟に役立つでしょう。 そこで僧侶その他、寺院関係の方々に提案です。福島原発行動隊に参加しましょう。参加出来るのは還暦を過ぎた方(六十才以上)です。 仏教僧侶が着けている僧衣が仮装ではないことを示すチャンスでもあります。

福島原発行動隊

 以前私が放射線取扱主任者をしていた国立がんセンターのホームページをみると、放射能で将来癌になる危険性は千ミリシーベルトの被曝で 喫煙と同程度と書いてあります。昨今話題になっている年間一ミリシーベルト程度では煙草による発癌の千分の一です。 私は放射能汚染野菜でも牛肉でも気にせず食べています。
 実際に危険なのは福島原発の事故現場です。地球を更なる放射能汚染から守るためには原発事故処理作業を今後数十年続ける必要があります。 そして、その作業をする人達は有害な線量の被曝が避けられません。
 この危険な場所で若い世代を働かせ被曝させてしまうのは良くありません。代わりに、 これまで原発に反対せずに電気を使ってきた還暦過ぎの我々が高度放射能汚染の現場での作業をしよう。このような考えで福島原発行動隊がつくられました。
 そこで還暦すぎた方だけ参加資格があるボランティアの案内です。福島原発行動隊に参加して、私達と共に高度放射能汚染の現場で仕事をしましょう。 このボランティアの中核となるのは技術者と技能者ですが、それ以外の方でも仕事は沢山あります。
 参加登録の方法は福島原発行動隊のホームページ の「登録フォーム」からが便利ですが郵送等でも可能です。 インターネットが不慣れな方は下記に御連絡下さい。

〒114-0023 東京都北区滝野川7-7-7 サークル伊藤ビル302 SVCF内
電話:03-5980-8535 ファックス:03-5980-8536
一般社団法人 福島原発行動隊 代表山田恭暉 宛

方便を究竟と為す

 「自分」という妄執から目覚め、人々の苦を抜くことを根拠として、苦の現場に近づくことを究極とする。これが仏教徒の理想だと思います。
 福島原発の現場での作業は体力を消耗します。そして放射能による危険も伴いますが、私達も責任をもって健康被害対策を準備しています (福島原発行動隊員の健康管理計画 参照)。

第1種放射線取扱主任者

 密封されていない放射能を扱う研究所などでは、放射能を管理するために第1種放射線取扱主任者免状を有する者が必要で、以前私もその仕事をしていました。
 福島県のホームページを見ると空間線量率μSv/hという単位で環境放射能測定結果がでています。 これは身体の外側から被曝する放射線を1時間当たりマイクロ・シーベルトで表しています。 マイクロは百万分の1という単位ですから、百万時間そこにいたら急性放射線障害が起こる外部被曝線量です。 自覚症状は1シーベルト以下では殆ど出ません。しかし確率的影響といって、将来癌になる危険性が増す可能性は少量の放射線被曝でもあると考えられています。 子供の場合には多少問題でしょう。医療放射線を含めて子供の被曝は可能な範囲で少なくする必要があります。 私の年令では癌になる可能性が少し増えたとしても、あまり問題ではありません。日本人が一生の間に癌になる可能性は50%位あるからです。 しかし、公衆への影響を考えると万が1でも問題にすべきです。1億人では、1万分の1でも1万人です。 そのような理由から年間1ミリ・シーベルトという一般の許容線量が設定されています。これは普段に自然から受けている放射線よりも少ない線量です。 私が以前そうであった放射線作業従事者の場合は5年で100ミリ・シーベルトです。1時間当たりに割り算すると2.3μSv/hで、これが5年間続く場合に相当します。

セシウム汚染牛肉による内部被曝

 放射線を出す物質を「放射能」といいますが、これを吸い込んだり飲み込んだりすると、身体の中で放射線を出すので、身体の中からの被曝が問題になります。 これを内部被曝といいます。放射能はBq(ベクレル)という単位で表されます。
 1キロ当たり650ベクレルのセシウムを牛肉で検出と報道され、スパーマーケットで和牛ステーキ肉が四割引、気の毒と買い得、 複雑な思いで購入してきて焼いて食べました。放射性セシウムを食べた場合に、それが体外に排出されるまでの内部被曝の合計は預託実効線量係数を掛け算することで計算できます。 セシウム137よりもセシウム134で、成人よりも乳児で少し多くなりますが大差はありません。3百グラム食べても3マイクロシーベルト程度です。 これを毎日1年間食べ続けても1ミリシーベルトです。この値は、国連報告による先進国の年平均診断用放射線被曝や自然の空気中のラドンによる被曝よりも少ない量です。

被曝による癌死増加の程度

 年間1ミリシーベルトの被曝でどの程度癌死が増えるかが問題です。米軍占領統治時代に始められた原爆傷害調査で被爆生存者の寿命調査が行われています。 そして個人被曝量が推定されている被爆者約8万6千人のうち1997年末までに約半数が死亡し、癌死が相対的に増える割合は被曝線量に比例するという結果が出ています。 そして1シーベルトの被曝によって将来癌死する確率は10パーセントと見込まれます。100ミリシーベルト以下の被曝では有意ではないので証拠はありませんが、 少ない線量でも被曝線量に比例して癌死が増えると考えるのが妥当でしょう。1ミリシーベルトの被曝では1シーベルトの千分の1ですから、 癌死の危険は10パーセントの千分の1で、1万分の1(万が一)となります。

福島原発行動隊参加による危険度

 政府は福島原発作業員被曝上限を100ミリシーベルトから250ミリシーベルトに引き上げました。100ミリシーベルト以下では癌死増加の証拠はなかったのですが、 250ミリシーベルトでは癌死の危険は2.5パーセント有意に増加します。この程度の危険性は覚悟して福島原発行動隊に参加して頂くことになります。

原発での汚染と被曝

 放射能汚染は気密性をもった防護服、手袋、靴、眼鏡、マスク等で防ぎます。アルファ線やベータ線を出す放射能の経口摂取や吸入が問題です。 N95マスクなどを密着させると息苦しさを感じますが内部被曝を防ぐためにはマスクの使用が不可欠です。
 汚染対策に加えてガンマ線による外部被曝を減らす必要があります。その対策は距離と遮蔽と時間の三つです。距離の二乗に反比例するので強い線源に近づかないことですが、 近づかざるをえない状況も起こりえるでしょう。遮蔽の目的で鉛入りの眼鏡や防護服が用いられますが、鉛を多く使うと重すぎて動けません。 被曝時間を減らすことは作業可能時間の短縮になってしまいます。

急性放射線障害について

 福島原発作業員被曝線量上限の250ミリシーベルトでは癌の発生が増加するなど確率的な影響だけですが、500ミリシーベルトを超えると確定的な影響が出現します。 まず血液中のリンパ球が一過性に減ります。さらに多く被曝した場合、1シーベルト(千ミリシーベルト)程度を超えると二日酔いのような自覚症状が現れ、 白血球や血小板が減少し、皮膚の紅斑や脱毛が起こるようになります。白血球や血小板が減る骨髄造血機能障害は通常1ヵ月位で回復してきますが、 回復が困難で治療が奏功しない場合には感染症や出血で死亡することになります。この骨髄死が放射線障害による死亡の主な原因です。 8シーベルト程度以上の全身被曝では骨髄障害に加えて腸管粘膜壊死が起こり、下痢による脱水や消化管出血で死亡します。 さらに15シーベルト程度以上では脳圧亢進による意識障害から数日で脳死に至ります。

骨髄の布施

 白血球や血小板を造る造血幹細胞は放射線に弱く、三~五シーベルトの全身被曝を受けると約半数の人が骨髄死で死にます。治療は造血幹細胞移植です。 布施波羅蜜に骨髄の布施がありますが、ヒト白血球型抗原は数万通りあり、適合するドナー(檀那)がみつかるとは限りません。
 骨髄の採取には二通りの方法があります。従来の方法は、中達哉師(豊山派世尊寺)が骨髄の布施をされたときのように、全身麻酔下に文字通り骨髄を採取します。 最近では、骨髄にある造血幹細胞を薬で血液中に出して集める末梢血幹細胞採取が行われています。

自己造血幹細胞保存で救命

 原発事故作業現場では被曝線量上限の250ミリシーベルトを超えないように管理することが最も重要でしょう。しかし、稀であっても事故は一定の頻度で起こります。 そして、不幸にして骨髄機能が回復しない場合、救命には骨髄移植が必要になります。
 そこで、虎の門病院血液科の谷口修一医師達は、事故原発作業員の造血幹細胞を前もって採取保存しておきたいと提案しています。 臍帯血バンクなどを利用して他人の造血幹細胞を移植することもできますが、拒絶反応やGVHD(移植片対宿主病)の可能性があり、 自分の造血幹細胞を用いる場合より成功率が低く、副作用もはるかに多くなります。 また適合するドナーが得られずに骨髄死に至る可能性もあるからです。
 これに対して、日本学術会議が「自己末梢血幹細胞採取は不要かつ不適切」という判断を示しました。私は、この判断こそが不適切だと思います。
 この文章を書いた日本学術会議東日本大震災対策委員会の方々は、もし自分が、あるいは自分の子供が危険な原発事故現場で作業することになったら、 はたして自己末梢血幹細胞を保存せずに行くのでしょうか? 誰が書いたか分かりませんが、少なくとも医療に従事していた医師が書いた文章ではないと信じたい、と思います。

医療倫理について

 さらに、日本学術会議は「倫理的側面を含めた血液学会の統一見解を期待する」という文を付加しました。この文にも、不適切な点が二つあると思います。
 先ず、血液学会は科学者の集まりであって、哲学者や宗教者など倫理の専門家は含まれていないという点です。
 二番目は、統一見解という点です。医療倫理の原則インフォームド・コンセントは「情報を知らされた上での自己決定権の尊重」です。 全体主義的な統一見解に従わせることではありません。偏った意見に誘導しない公正な情報を提供した上で、各自の自己決定を尊重するという、民主主義の原則に従うべきでしょう。